大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和37年(ワ)334号 判決 1962年12月19日

原告 国

訴訟代理人 山田二郎 外三名

被告 久保田章治郎

主文

被告は原告に対し、原告が別紙目録記載の土地につき、京都地方法務局嵯峨出張所昭和三十二年三月五日受付第一七一二号を以つてなされた所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をするにつき、承諾せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

成立に争のない甲第一、二号証によると、原告は、昭和二十三年十二月二日自作農創設特別措置法に基き、訴外竹内季子所有(但し登記上は同人の先々代竹内こう名義)の別紙目録記載の土地(農地)につき、買収日時を昭和二十三年十二月二日と定めた買収処分をし所有権を取得したことが認められる。被告は右買収処分は取消されたと主張するが、これを認めうる資料がないばかりか、却つて前記甲第二号証に徴すると、かかる取消処分のなかつたことが明かである。

ところで原告の右買収処分による所有権の取得については、当時その旨の登記のなされなかつたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争のないところであるが、前記法律に基く買収処分は原告たる国家が公権力に基き私人の農地の強制買上げをするものであつて、対等の立場に立つ私人相互間の経済的取引たる売買とその性質を異にするばかりでなく、一般的に言つて、私法上の原因に基く所有権の変動ではないのであるから、民法第百七十七条の適用のないものと解すべきであり、原告の前記所有権取得は登記なくとも、何人に対しても主張しうるものと言わねばならない。

しかして被告が昭和三十二年三月四日訴外竹内季子との間に別紙目録記載の土地につき売買予約をしたとして、同月五日これに基く所有権移転請求権保全の仮登記をしていることは当事者間に争がないが、前認定のとおり右土地は当時すでに原告の所有であつたのであるから、仮りに被告が訴外竹内季子との間に真実売買予約を結んだとしても、それは所有権者でない者との間にしたものであつて、右予約そのものは必ずしも無効とは言えないとしても、所有権者でない訴外竹内季子を登記義務者としてなした右仮登記は真の所有権者である原告に対しては何等の効力を有しない無効のものと言わねはならない。従つて被告は右仮登記権利者として所有権者である原告に対し、右仮登記を抹消すべき義務のあるのは勿論、原告が不動産登記法第百四十四条第二項に基きその抹消登記申請をするにつき、これを承諾する義務を負うものと言うべきである。

以上の通りであるから、原告の本訴請求は理由があり認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 喜多勝)

目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例